ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第三幕より
「前奏曲と愛の死」

ヴィルヘルム=フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
 
Recorded:1942

 

巨匠フルトヴェングラーのメロディア盤である。先の戦争終結時にソビエト軍がベルリンにあったドイツ帝国放送局、電話局から録音・再生機材もろともに押収した録音テープが基になっている。ソビエト国外にはペレストロイカまで世に出ることはなく、発売当初は「クレムリンの地下に眠る門外不出の放送用録音原盤」などと噂され、モノラルながら愛好家も驚くほどの音質と言われたもの。国営レコード会社メロディアの保管庫あったマスターテープを基に日本向けに発売された。価格帯としては高めであったにもかかわらず、録音の一部に欠損したものがあったり、ジャケット表記もミスプリントがあって紙テープで訂正されていたりするものもあって、購入時はこんな品質があるものなのかとも感じたものだが、これらは今となっては当時を偲ばせる懐かしの一品でもある。あの当時、最新のメロディア盤をいち早く手に入れるためには、古本屋が建ち並ぶ神保町の一角にある「新世界レコード」に行かなければならなかったが、この「トリスタンとイゾルデ」もわざわざ出向き手間をかけて手に入れたものの一つであり、個人的な思い入れもある。モノラルにもかかわらず音質は鮮明、ノイズも少ない。のちにEMIにおいて初の全曲録音を完成させ、最高のトリスタンと言われる演奏を残したフルトヴェングラーにして、この「前奏曲と愛の死」も負けず劣らず、管弦楽のうねりが聴く者の心を打ち、感情を揺さぶる。何回聴いても彼以上のトリスタン演奏は出てこないのであろう、との確信を持ってしまう。ラベルの「ダフニスとクロエ」第二組曲とのカップリングである。

 

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