ワーグナー:歌劇『さまよえるオランダ人』全曲

【デッカ盤】
 ヘルマン=ウーデ(Bs:オランダ人)
 ルートヴィヒ=ヴェーバー(Bs:ダーラント)
 アストリッド=ヴァルナイ(S:ゼンタ)
 ルドルフ=ルスティヒ(T:エリック)
 エリーザベト=シェルテル(Ms:マリー)
 ヨーゼフ=トラクセル(T:舵取り)

 ヨーゼフ=カイルベルト指揮 バイロイト祝祭管弦楽団、合唱団
 Recorded:1955

【メロドラム盤】

 ※上記の配役、エリックのみ交代している。
 ヴォルフガング=ヴィントガッセン(T:エリック)

 ハンス=クナッパーツブッシュ指揮 バイロイト祝祭管弦楽団、合唱団
 Recorded:1955

 

1955年バイロイトのある出来事。カイルベルトとクナッパーツブッシュ

若い頃のことである。今となっては懐かしい中古レコード店で物色していると、クリーム色の綺麗な「オランダ人」の全曲ボックスが目にとまった。指揮者のカイルベルトは再建されたバイエルン州立歌劇場を率い、こけら落としでもあるマイスタージンガーを振ったことでも有名である。即購入した。それから間もなくクナッパーツブッシュの全曲ボックスにも巡り逢い、躊躇わずこれまた購入した。共にバイロイト録音である。そして改めて両ボックスの年号を眺めてみると…共に1955年とある。そんなことって。カイルベルトの方はデッカ盤なので当時の正規盤である。一方、クナはメロドラム盤。これは中身がクナではなく、カイルベルトだろうと勝手に解釈し、ガッカリして聴いてみると第一幕冒頭出だしのノルウェーの荒波、うねり方は明らかにクナである。それでは年号をミスったのかなと思い、安易に調べもせずに長らくモヤモヤしていた。まったくお恥ずかしい限りである。
のちにバイロイトの依頼でカイルベルトが任されていた「オランダ人」を(表現が悪いけれど)クナが横やりのように割り込んで半ば途中から分捕ってしまったため、指揮者が異なる録音が、複数できたことを知った。生真面目なカイルベルトだからリハーサルをしっかりしたのかもしれない。ソリスト達をようやく纏めたところを途中からクナにさらわれた感じなのであろうか。ここは俄然、カイルベルトを応援したいところだが、悲しいかな脳裏に浮かんでは響くのは、なぜかモノラル録音のクナの方なのである。元々、私はクナのワーグナーが好きなのだからしようが無い。
不条理ですが、こういうことってありますよね。

 

最近、2021年バイロイト公演のテレビ放映をみました。初めて「オランダ人」を観た方がいたらどんな感想を持ったか聞きたいところです。あの演出をワーグナーが観たら何と思うことでしょう?