国立にジュピターという名曲喫茶があった。

国立駅南口を背に放射状に三本の直線が走る。右手の方角、冬の日の透き通った青空の下でひたすら真っ直ぐに伸びる線。遙か向こうに小さく富士山が現れることもある。そこを黙々と歩けばどこかに国立音大があったはずだ。ただ線上をとぼとぼと5分ほど歩む。ハーフテンバーといわれる筋交い様式が目を引いたであろう名曲喫茶ジュピターが通り沿いにあった。外見に派手さはなく、佇まいはひっそりとしている。斜向かいにリーズナブルな美味しい洋食屋さんもあり、食後のティータイムとして利用する人も多かった。 この喫茶は店内に流れる音楽がどうこう、と言うよりもその構造に伴うその空間の広さと開放感がより際立って思いだされる。とにかく天井が高かったイメージが強く、その吹き抜け構造は喫茶でなくても斬新に感じただろう。店内はそれほど明るくなく、その空間の一部が二階部になっている。スピーカー音を上下に分けるような劇場構造といえば、渋谷の名曲喫茶ライオンがつとに有名だが、二階、三階にしっかりと席を設ける階層構造のライオンとは異なり、吹き抜け、というより天井がただ三階ぐらいまである、だだっ広い空間を設けた構造は、一階のスピーカーから発せらる音を柔らかく反響させ豊かな残響を生み出す効果もあったのかもしれない。

国立『ジュピター』②へ続く〉